映像制作の現場における露出計の必要性

デジタルカメラの進化により、波形モニター、ヒストグラム、False Colorなど、
露出を確認する手段は格段に増えました。
それでもなお、プロの現場で露出計が手放せない理由は何か。
それは「数値で共有できる確実な基準」を持てる唯一のツールだからです。
光量には基準がある
まず大きな概念として理解しておきたいのは、カメラの設定に対して適切な光量、
いわゆる「ノーマル」が必ず存在するということです。
ISO、シャッタースピード、T値(F値)といったカメラ設定を決めた時点で、
その設定に対して最適とされる光量はすでに決まっています。
ノーマルより光が少ないと「少し暗い」、ノーマルより光が多いと「明るい」と、
カメラのモニターを見て判断できるのは、この基準が存在しているからです。
ドキュメンタリーを撮影するビデオグラファーなどの場合、
自然光や置かれた環境の中で撮影することが多く、その環境に合わせてカメラの露出を調整する、
というイメージを持っている方も多いと思います。
今ある光に対して、カメラ側を合わせていくという考え方です。
一方で、スタジオライティングでは、考え方が逆になります。
まずカメラの設定を決め、その設定に対して適切な光量になるよう照明を組み上げていきます。
光をカメラの設定に合わせるという考え方です。
・ドキュメンタリーや自然光中心の撮影
→光に合わせてカメラの露出を決める
・スタジオライティング
→カメラの設定に合わせて光量を決める
という、明確に逆の考え方があります。
僕自身、当初はブライダル撮影を中心に経験を積んできたため、
環境光に対してカメラの露出を合わせるという考え方が強くありました。
そのため、カメラの設定を先に決め、
その設定に合わせて光を作るというスタジオ的な発想に慣れるまでには、少し時間がかかりました。
ここからは、僕が実際の現場でどのように露出計を使っているのか、
そしてどんな場面でその必要性を感じているのかについて解説していきます。
何が正しいのかを知るための基準
現場には複数の“基準”が存在します。
カメラの内蔵モニター、外部モニター、クライアントモニター。
それぞれ表示が微妙に異なり、どれを信じるべきか迷うことは少なくありません。
露出計は、そうした曖昧さを数値によって整理してくれます。
「このカメラ設定に対して、今の光量は適正なのか」その基準を明確に示してくれる存在が露出計です。
モニターはあくまで確認のために見るものであり、判断の軸を露出計に置く。
それが最終的に最も信頼できる判断となります。
入射光式と反射光式の使い分け
露出計の本領は、入射光式と反射光式を適切に使い分けることで発揮されます。
スタジオライティングの場合、まず入射光式を使い、被写体に対してカメラの設定に適した光量、いわゆる「ノーマル」を作ります。ここでは、被写体に当たっている光そのものを測り、基準となる“正しい明るさ”を作るイメージです。
その後、カメラ位置から反射光式を使い、最終的な露出の確認を行います。
被写体の色や素材によって反射率は異なるため、部分的にハイライトが飛びすぎていないか、シャドウが潰れていないかなど、画面内の明暗がカメラのダイナミックレンジ内にきちんと収まっているかをチェックします。
入射で基準を作り、反射で確認する。
この順序が重要です。
アベレージを取るという考え方
特に自然光での撮影など、光量を自由にコントロールできない現場では、一箇所の明るさだけを見て判断すると、露出のバランスが偏りやすくなります。
(もちろん、意図的に明暗を偏らせるなど、クリエイティブな判断としてそうする場合もあります)
そこで、露出計を使って、暗部と中間とハイライト、それぞれを測り、そのアベレージ(平均値)を見ることで、露出がどちらかに寄りすぎていないかを把握します。
露出計があると、その場の適正露出を、感覚ではなく数値として捉えることができます。
適正露出が取れていない場合、結果的にポストプロダクションで露出の調整が必要になります。
特に、撮影時に適正な露出が確保できていないと、階調が破綻したり、ノイズが目立ったりする原因になります。
現場でアベレージを把握しておくことが、結果的に全体のクオリティを守ることにつながります。
露出計は再現性を生むための道具
プロの映像制作の現場において、再現性は非常に重要です。
別日、別現場、別カットでも同じルックを作れるかどうか。
露出を数値で管理できれば、再現性が生まれます。
感覚だけに頼らず、数値という共通言語を持つことで、チーム全体の精度も上がります。
露出計は古い道具ではありません。
むしろ、映像制作が高度化した今だからこそ、現場に必要な「基準」を与えてくれる存在です。
数値だけで画をイメージできるようになる
露出計に慣れてくると、カメラがなくても数値を見ただけで、どのような映りになるかが分かるようになります。
これは、経験と露出計の数値が結びついた結果です。
「この数値なら、このくらいのコントラストになる」
「この数値なら、シャドウにはまだ余裕がある」
「モニターではハイライトが飛びかけているが、レンジ内には収まっているから大丈夫だ」
こうした判断が瞬時にできるようになることで、照明のセッティングも迷いが減り、
結果として現場全体のスピードと精度が上がります。
僕の場合、照明を組み上げたあと、最後にカメラの電源を入れる、ということも少なくありません。
まとめ|露出計が現場にもたらすもの
露出計があることで、現場には共通の判断基準が生まれます。
「明るい」「暗い」といった感覚的な言葉ではなく、数値で会話ができるようになります。
光を数値で共有できることは、プロの現場における共通言語です。
判断が早くなり、迷いが減り、結果として現場全体の精度とスピードが上がります。
感覚だけではなく、同じルックを何度でも再現できること、
それこそが、プロの仕事だといえるのではないでしょうか。


僕が使っているのは、SEKONIC L-858Dという機種です。
裏面には自作の「露出計算尺」を取り付けて「何ストップ差なのか」を都度確認しています。
MEAL RECORDSが大切にしていること
MEAL RECORDSが現場で何より大切にしているのは、
感覚や雰囲気ではなく、判断の拠り所を明確に持つことです。
映像は感性の仕事である一方で、同時に極めてロジカルな仕事でもあります。
どんな意図でその明るさなのか、なぜそのコントラストなのか。
それを説明でき、再現できてこそ、プロの仕事だと考えています。