この記事では、照明の種類や配置、機材の話はしません。
「どんな照明を使うか」ではなく、「なぜ、その光で見せたいのか」
その思考について書こうと思っています。
コンテを見ていると、カメラサイズや構図、芝居の流れは描かれているのに、光の意図だけが見えてこないと感じることがあります。それは、「照明指示が足りない」という話ではありません。
「光で、何を伝えたいのか」が言語化されていない、という話です。
つまり、光は単なる明るさや雰囲気づくりの手段ではなく、映像の中で感情や意味を伝える強力なツールです。だからこそ、光をどう使うかではなく、光で何を伝えたいのかを意識することが重要だと思っています。
この記事では、コンテに“光が書けている状態とは何か”を、DPの視点から整理してみたいと思います。
「どう照らすか」ではなく、「どう感じさせたいか」。
その違いを意識するだけで、コンテの強度も、現場の判断の速さも、確実に変わっていくはずです。
コンテには、カットサイズや構図、人物の動きは描かれているのに、「光」の意図が読み取れないことがあります。もちろん、すべての光を絵で描く必要はありません。
けれど、そのカットを、どんな光で見せたいのかという考えがコンテから伝わってこないと、画づくりは途端に手探りになります。
DPとして現場に立っていると、「これは、光まで設計されたコンテなのか」、それとも
「構図だけが先に決まっているコンテなのか」その違いは、すぐに分かります。
ここで言う“光”とは、単に明るくするか、暗くするかといった量の話ではありません。
・どう見せたいのか
・どんな感情を描きたいのか
・安心させたいのか、緊張感を残したいのか
そうした演出の方向性そのものが、コンテの中に含まれているかどうか、という話です。
たとえば、同じバストサイズのカットであっても、
・爽やかで、軽やかな印象にしたいのか
・どこか重さや湿度を残したいのか
その意図によって、必要とされる光のあり方はまったく変わります。
それが読み取れないコンテでは、DPはまずその意図を探るところから始めることになります。
コンテに必要なのは、「このライトをここに当てる」といった指定ではありません。
DPとして知りたいのは、たとえば──
・洗練された世界として見せたいのか（リッチ感）
・生活の中にある日常の景色として捉えたいのか（生活感）
・記録として切り取るのか／演出として構築するのか
・環境に任せるのか／コントロールするのか
・時間帯はいつなのか
そうした判断の軸です。
それが共有できていれば、光の具体的な作り方は、自然と組み立てていくことができます。
光の意図が含まれているコンテは、現場での判断がとてもスムーズです。
「ここはもう少し抑えたいですね」
「ここは、顔をちゃんとみせたいですね」
そんな会話が、感覚ではなく、同じ前提の上で交わせるからです。
逆に、光の意図が共有されていないと、明るさや影の調整は、判断軸を失い、その場その場の好みの話になってしまいます。
コンテに“光”が書けているということは、画の見た目だけでなく、そのカットで何を伝えたいのかが整理されているということです。
光の意図が言語化されていれば、現場での判断は早くなり、迷いも減ります。
結果として、画づくりは安定し、演出の軸もぶれにくくなります。
そしてそれは、制作側だけのメリットではありません。
光の方向性まで含めて整理されたコンテは、クライアントにとっても「完成形が想像しやすい」提案になります。なぜこの画なのか、なぜこのトーンなのかが伝わることで、安心して判断してもらえる確率が高まります。
「どう照らすか」ではなく、「どう感じさせたいか」が描かれているコンテは、
現場でも、そしてクライアントの前でも、選ばれる強さを持っていると感じています。
コンテに描かれている構図やサイズの奥にある、感情や、空気感、見せ方の意図までを読み取り、それを光と画に落とし込んでいく。
弊社ではそのプロセスを、ディレクターやCMプランナーと丁寧にすり合わせながら進めています。
光は、確かな技術に支えられているものだと思っています。
その土台があるからこそ、演出意図としても扱うことができる。
技術と意図のどちらか一方ではなく、両方を行き来しながら判断していく。
その積み重ねが、現場での迷いを減らし、結果として画の説得力につながっていると感じています。
光の意図は、演出プラン全体の思考と切り離して考えることはできません。
DPが演出プランをどう読み、感情やトーンをどう画に変換しているのか。
その前提となる考え方を、こちらの記事で整理しています。