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DPは最初に“画”を考えていない

作成者: Meal Records|2025.12.17

この記事では、カメラやレンズ、照明機材の話はほとんどしません。
代わりに書きたいのは、演出プランを受け取った時、DPが頭の中でどんなことを考えているのか、その思考の話です。では僕(シネマトグラファー・DP)が、演出プランを“画”に落とす時、何を考えているか 話してみたいと思います。

画づくりの前に、意図を探している

演出プランを受け取った時、僕がまず考えているのは、「このCMで、何を一番伝えたいのか」という点です。それが、商品の強さなのか、人の感情なのか、あるいは空気感や余韻なのか。この答えが見えないまま、照明設計や、寄りの画か引きの画かといった判断を先にしてしまうと、映像は途端に軸を失ってしまいます。

コンテを“答え”だとは思っていない

コンテを拝見した時、僕はそれを完成形だとは捉えていません。
むしろ、次のようなことを自分に問いかけています。
・なぜ、ここでこのサイズなのか
・なぜ、この順番なのか
・なぜ、このカットが必要なのか
絵が描かれていても、その理由が読み取れないコンテもあります。
一方で、ラフであっても意図が明確なコンテは、画に変換しやすいと感じています。
僕にとってコンテは、「このCMで、何を一番伝えたいのか」を探るための材料です。

演出意図を「感情の流れ」に置き換える

僕は、演出プランを時間軸で読み直し、それを感情の流れとして捉え直しています。
冒頭で、視聴者にどんな気持ちになってほしいのか。
中盤で、何に目を向けてほしいのか。
ラストで、どんな余韻を残したいのか。
これは、セリフやナレーションの話ではありません。視聴者の感情を、どう動かしていくかの話です。
照明のコントラストや露出、カメラとの距離感は、その感情の流れをなぞるための手段にすぎないと思っています。「暗いから不安」ではなく、「不安にしたいから、光を削る」。
この順番が逆になると、画は途端に説明的になってしまうと感じています。

「かっこいい画」より先に決めていること

現場でよく耳にする言葉に、「かっこよく撮りたい」というものがあります。
もちろん、それ自体が間違っているとは思っていません。
ただ、僕自身は、それを最終的なゴールとして考えているわけではありません。
演出プランが求めているのは、強さなのか、親しみなのか、あるいは静けさなのか。
その方向性が定まらないまま画を組み立ててしまうと、見た目は整っていても、何を伝えたいのかが分かりにくい映像になってしまうと感じています。

画は、意図が決まった後に自然と見えてくる

意図が明確になると、視聴者をどの立場に置きたいのかが見えてきます。
それに伴って、人物の表情をどこまで見せたいのか、状況全体をどの程度伝えたいのかといった判断も整理されていきます。そうした前提が整うと、寄りで撮るのか、引きで捉えるのかといった画の選択は、自然と決まっていきます。

一方で、画だけを先に決めようとすると、「なぜこのサイズなのか」という迷いが残り、判断を何度もやり直すことになりがちです。僕がコンテを答えだと思っていないのは、最初から“画”を決め切らない方が、現場で演出意図を確かめながら判断でき、結果として意図のぶれない映像につながると考えているからです。

まとめ:「どう撮るか」より前に、 「どう感じてほしいか」が共有できている現場は、 だいたい、画も強い。

画づくりの前に、視聴者の感情コントロールの意図が共有されていれば、カメラサイズや光の設計、構図の判断は、現場の流れの中で自然と揃っていきます。逆に、その軸が曖昧なままでは、どれだけ整った画を重ねても、何かが伝わりきらない映像になってしまうことがあります。
だから僕は、演出プランを受け取った時、まず「このストーリーでどう感じてほしいのか」を考えるようにしています。それが共有できていれば、画は、無理なく、ひとつの方向に向かっていく。
僕はそう信じて、現場に立っています。

MEAL RECORDSが大切にしていること

MEAL RECORDSでは、画づくりの前に、「このCMで、どう感じてほしいのか」という会話を大切にしています。テクニックやスタイルを提示する前に、このCMで、視聴者にどんな感情を残したいのか。どこで心を動かし、どんな余韻を持ち帰ってもらいたいのか。その部分を、ディレクターやCMプランナーの方と、できるだけ丁寧に共有することから始めています。

完成形を急いで決めるよりも、演出意図がぶれないこと。
現場で起きる変化を、より良い判断につなげられること。

そうしたプロセスを重ねた結果として、「想像していた以上の画になった」と言っていただけることが多いのだと思っています。この記事でお伝えしてきた考え方は、そのまま、MEAL RECORDSの現場でのスタンスです。

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演出プランを“画”に落とす時、DPは何を考えているか

この記事では、DPが画づくりの前に考えている「意図の読み取り」について書いてきました。
では、その意図をどう整理し、現場での判断につなげていくのか。
演出プランを“画”に落とすまでの思考全体は、こちらでまとめています。